このような病気が心配な方は、一度ご相談ください。
妊娠中の感染症
妊娠中の感染症
水痘・帯状疱疹

はじめに
2025年5月現在、東京都内では水痘(みずぼうそう)の報告数が増加しており、注意報基準を一時的に超える地域も出ています。特に春から初夏にかけては水痘の感染が広がりやすい季節であり、妊婦さんやそのご家族にとって注意が必要な状況です。
水痘は子どもがかかることの多い病気ですが、大人がかかると重症化することもあります。特に妊婦さんが感染すると肺炎を起こすことがあり、まれに重篤な経過をたどることもあります。実際に、妊娠後期に水痘肺炎を発症して入院管理が必要になった例や、集中治療室での対応を要した例も報告されています。
水痘とはどんな病気?
水痘は、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)によって引き起こされる感染症で、発熱とかゆみのある水ぶくれが全身に現れます。感染経路は空気感染、飛沫感染、接触感染があり、非常に感染力が強いのが特徴です。
水痘はワクチンで予防可能であり、定期接種が推奨されています。
妊婦さんと赤ちゃんへの影響
妊婦さんが感染した場合:
重症肺炎・肝炎・脳炎などを併発するリスクがあり、特に妊娠20週以降は重症化しやすいとされています。
胎児への影響(先天性水痘症候群):
妊娠13〜20週頃の感染でまれに発症することがあり、瘢痕、四肢低形成、眼や脳の異常などが起こることがあります。
新生児への影響(新生児水痘):
分娩の5日前〜2日後に母親が水痘を発症すると、重症化する水痘を新生児が発症することがあります。
水痘にかかった場合の対応
- 早期受診が重要です。
- 抗ウイルス薬(アシクロビルなど)を使用します。
- 胎児への影響確認のための超音波検査が行われます。
- 分娩前後で感染した場合、新生児に免疫グロブリン製剤(VZIG)や抗ウイルス薬を投与します。
水痘患者との濃厚接触時の対応
濃厚接触とは:
- 同じ部屋に1時間以上いた
- 5分以上の対面会話
- 同居家族に患者がいる
対応:
- すぐに医療機関へ連絡
- 抗体検査を行い、必要に応じてVZIGを投与(96時間以内)
- 発熱や発疹があればすぐ受診
帯状疱疹について
妊婦さんが帯状疱疹を発症した場合:
2023年産科ガイドラインでは、胎児への影響はほとんどないとされていますが、重症の場合には抗ウイルス薬治療を行うことがあります。
帯状疱疹患者との接触:
空気感染はしませんが、水疱への接触で水痘として感染することがあります。妊婦が抗体を持っていれば問題は少ないですが、不明な場合は抗体検査・VZIGを検討します。
最後に
妊娠中の感染症はとても不安なものですが、当院では妊娠中の方へ向けた情報とともに、やさしく丁寧に対応しております。ご心配なときは、どうぞお気軽にご相談ください。
参考表:水痘と帯状疱疹の比較
項目 | 水痘(みずぼうそう) | 帯状疱疹 |
原因ウイルス | 水痘・帯状疱疹ウイルス(初感染) | 水痘・帯状疱疹ウイルス(再活性化) |
主な症状 | 全身に広がる水疱と発熱 | 体の一部に帯状の痛みと水疱 |
感染経路 | 飛沫・空気・接触感染 | 水疱からの接触感染(空気感染はしない) |
妊婦への影響 | 重症化・胎児への影響あり | 一般的には胎児への影響なし |
予防 | ワクチン(定期接種) | 50歳以上で予防接種あり |
リンゴ病

リンゴ病とはどんな病気?
リンゴ病は「伝染性紅斑」とも呼ばれるウイルス感染症で、ヒトパルボウイルスB19というウイルスが原因です。
お子さんに多い病気で、ほっぺたが赤くなるのが特徴的。けれど大人がかかると発疹が出ないこともあり、関節の痛みや軽い風邪のような症状だけ、ということも多くあります。
妊婦さんと赤ちゃんへの影響
妊娠中にこのウイルスに初めて感染すると、まれに胎児にも感染し、貧血やむくみ(胎児水腫)、最悪の場合には胎児の命に関わるケースもあります。
感染した妊婦さんの約20%が胎児へウイルスをうつし、その中のさらに20%前後で重い症状が出るとされていて、全体では約4%がリスクのある状態になる可能性があります。
感染の多い時期・感染経路
リンゴ病は主に春から夏にかけて流行し、数年おきに大きな流行があります。2025年も全国的に増加傾向が見られ、注意が必要です。
感染経路は咳やくしゃみを通じた飛沫感染、あるいは手指などの接触によるもの。特に注意しなければいけないのは、症状が出る前、つまり「風邪っぽいな」と感じる時期に一番感染力が高くなることです。発疹が出るころには感染力はぐっと下がっています。
このため、誰が感染しているのか見分けにくく、「知らないうちにうつっていた」ということもあるのです。
妊娠さんの注意すべき期間
特に注意したいのは妊娠8週〜20週ごろ。この時期は胎児が肝臓で血液をつくっている「肝造血期」にあたります。もしウイルスが赤血球を作る細胞に感染すると、重度の貧血や心不全を引き起こし、胎児水腫になるおそれがあるのです。
妊娠後期(28週以降)に感染した場合は、こうした重い症状が出る確率はぐっと低くなります。
家族の風邪にも注意
実際に胎児がリンゴ病に感染したケースでは、妊婦さん自身は「症状がなかった」「風邪だと思っていた」というケースも多く見られます。
さらに家族、とくに上のお子さんが幼稚園や保育園、学校などで感染してきて、それが妊婦さんにうつるというパターンも。身近な人の体調にも目を配ることが、感染予防につながります。
妊婦さんができる感染予防
リンゴ病には予防接種がないため、日常生活での予防がとても大切です。
- 外出時はマスクをつける
- 帰宅後は手洗い・うがいをしっかり
- 流行している地域への外出はできるだけ控える
- 家族に風邪の症状がある場合は少し距離を取る
またご家族や周辺の方々もリンゴ病を持ち込まないよう、同様の対応をお願いします。
立川市周辺地域の流行情報は「東京都感染症情報センター」などの公的機関からも確認できます。
感染が心配なときは、まずお電話でご相談を
もし「もしかしてリンゴ病かも?」「家族や周囲の人がリンゴ病になった」等心配になりましたら、まずはかかりつけの産婦人科へお電話ください。いきなり来院するのではなく、検査のタイミングや感染防止の観点から、医師の指示を受けて行動しましょう。
必要に応じて血液検査やエコーで赤ちゃんの様子を丁寧に確認します。中には自然に回復する赤ちゃんもいて、感染しても問題なく元気に生まれてくるケースもあります。
最後に|大切なのは“知っておくこと”
リンゴ病は多くの場合は軽い病気ですが、妊娠中だけは特別な注意が必要です。過度に不安になる必要はありませんが、感染を防ぐためにできることを心がけておくが大切です。
妊婦さんが健やかに毎日を過ごせるよう、こむかい産婦人科ではサポート体制を整えています。気になることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。
百日咳

百日咳とはどんな病気?
百日咳は、ボルデテラ・パータシス菌による細菌性の呼吸器感染症です。特徴的な激しい咳が数週間続き、大人では軽症で済むことが多いものの、新生児や乳児が感染すると、呼吸が止まるような発作や肺炎を引き起こすことがあります。
感染初期は風邪に似た症状で始まるため、周囲が気づかないうちに赤ちゃんにうつってしまうこともあります。
妊娠中にできる「母子免疫」
百日咳の定期予防接種は、生後2カ月以降に開始されます。それまでの期間、赤ちゃんは感染に対する防御力がない状態です。この空白の時期を補う方法が、妊娠中のお母さんがワクチンを接種して抗体を胎盤から赤ちゃんに移行させる「母子免疫」です。
こうした抗体は、生まれて間もない赤ちゃんにとって重要な防御となり、重症化のリスクを低減することが期待されています。
海外では標準化された予防策
アメリカ、イギリス、オーストラリアなどでは、妊婦さんに成人用三種混合ワクチン(Tdap)を妊娠後期に接種することが標準的な予防策となっています。この方法は、母体の抗体を通じて赤ちゃんに免疫を届け、百日咳の感染と重症化を予防する効果が確認されています。
日本における現状と対応
日本では、2025年5月現在、Tdapワクチンは未承認であり、妊婦さんへの定期的な接種体制は整っていません。しかし、定期接種で使われてきた三種混合ワクチン(DTaP:商品名トリビック)は成人にも使用可能で、妊婦への皮下接種も添付文書上認められています。
厚生労働省の研究により、DTaPを妊婦に接種することで、赤ちゃんに抗体がしっかり移行することが確認されています。なお、赤ちゃんの重症化を防ぐ効果については、今後のさらなる調査が必要です。
ご家族の協力も感染予防に
百日咳は、家族内での感染が赤ちゃんに波及することが多くあります。お父さん、おじいちゃん・おばあちゃん、きょうだいなど、赤ちゃんと接する機会の多いご家族も、必要に応じて予防接種を検討することが勧められます。
ご家庭全体で予防の意識を共有し、赤ちゃんを取り巻く環境を整えることが、感染症対策としてとても大切です。
最後に
こむかい産婦人科では、妊娠中の感染症予防について、詳しい情報を丁寧にお伝えし、安心して出産を迎えられるよう支援しています。百日咳のような「ワクチンで防げる病気(VPD)」は、予防と準備によって重症化や感染拡大を防ぐことができます。
ご不安やご質問がある方は、いつでもお気軽にご相談ください。スタッフ一同、皆さまの健康と赤ちゃんの健やかな毎日を心より願っております。

