2023/12/11
2023年11月14日に
「妊婦にとって禁忌とされている新型コロナウイルス感染症治療薬の処方並びに調剤に関する合同声明文」が3つの学会及び日本医師会、日本薬剤師会より出されました。
内容としては
妊婦にとって禁忌とされる新型コロナウイルス感染症の治療薬が医師による問診、チェックリストによる確認後の処方、薬剤師による聞き取り、チェックリストによる確認後の調剤を行っていたにもかかわらず、結果として妊婦への処方、調剤となってしまった事例が多数報告されており、その結果、実際に薬を服用した患者様は大変に大きな不安を抱えて妊娠と向き合うことになってしまっていること。
患者様本人が妊娠の可能性がないと申告されても、医師や薬剤師がいくら妊娠に留意して対応したとしても、そのような事例は完全には排除できないということから、患者様に丁寧に説明し、できるだけ慎重に対応していきましょう。
ということです。
ここで問題になるのは①薬の種類による危険度と②妊娠していた場合の週数です。
①長期に渡って使用され、十分な検討をされている薬と異なり、新型コロナウイルス感染症治療薬は情報が十分にはありません。
国立成育医療研究センターのホームページによると
主な治療薬
抗ウイルス薬
薬剤名 | 添付文書 (妊婦の使用) |
動物実験 | 人での使用経験報告 | 総合的評価 |
---|---|---|---|---|
ベクルリーⓇ |
有益性投与 | 催奇形性なし | 妊娠中期以降の 使用報告では リスクはみられていない |
特例承認の除外基準に
妊婦が含まれている |
ラゲブリオ® (モルヌピラビル) |
禁忌(不可) | 催奇形性あり | 研究報告なし | × |
パキロビッド®パック (ニルマトレルビル /リトナビル) |
有益性投与 | 催奇形性なし | 主に妊娠中期以降の 使用報告では リスクはみられていない |
△ |
ゾコーバ® (エンシトレルビル) |
禁忌(不可) | 催奇形性あり | 研究報告なし | × |
中和抗体薬
薬剤名 | 添付文書 (妊婦の使用) |
動物実験 | 人での使用経験報告 | 総合的評価 |
---|---|---|---|---|
ロナプリーブ® (カシリビマブ /イムデビマブ) |
有益性投与 | 薬剤の特性(解説参照)から 実施不要と判断された |
主に妊娠中期以降 使用例での疫学研究では リスクは示されていない |
薬の特性からリスクは考えにくいが、 まだ安全性に関する情報はない |
ゼビュディ® (ソトロビマブ) |
有益性投与 | 薬剤の特性(解説参照)から 実施不要と判断された |
主に妊娠中期以降 使用例での疫学研究では リスクは示されていない |
薬の特性からリスクは考えにくいが、 まだ安全性に関する情報はない |
エバシェルド® (チキサゲビマブ /シルガビマブ) |
有益性投与 | 薬剤の特性(解説参照)から 実施不要と判断された |
研究報告なし | 薬の特性からリスクは考えにくいが、 まだ安全性に関する情報はない |
免疫抑制薬・免疫調節薬
薬剤名 | 添付文書 (妊婦の使用) |
動物実験 | 人での使用経験報告 | 総合的評価 |
---|---|---|---|---|
副腎皮質ステロイド |
有益性投与 | 催奇形性あり | 大規模疫学研究で リスクの増加は 示されていない※ |
〇
胎盤移行が少ない
プレドニゾロンの使用が すすめられる |
オルミエント® (バリシチニブ) |
禁忌(不可) | 催奇形性あり | 研究報告なし | × |
アクテムラ® (トシリズマブ) |
有益性投与 | 催奇形性なし | 小規模な研究でリスクは 示されていない |
△ |
〇:疫学研究(人での使用経験報告)があって、リスクが示されていない
△:疫学研究(人での使用経験報告)はない、もしくは少ないが、動物実験などからリスクはなさそうと考えられる
×:リスクが危惧される
※口唇口蓋裂との関連を指摘する報告もあるが、それを否定する報告もあり、結論は出ていない。
(2022.12.15改訂)
さらに詳しくはhttps://www.ncchd.go.jp/kusuri/covid19_yakuzai_medical.html
十分に安全と言える薬剤ばかりではありません。
②妊娠週数による薬剤の影響の変化ですが、産婦人科診療ガイドライン―産科編2023によると
1.受精前あるいは受精から2週間(妊娠3週末)まで
ごく少数の医薬品を除き先天異常出現率は増加しない。
(この時期のダメージは流産になるか、ダメージが修復され先天異常は起こらないかどちらかになる)
2.妊娠4週以降7週末まで
先天異常を起こしうる医薬品が少数ながら存在する。
3.妊娠8週以降12週末まで
大奇形は起こさないが小奇形を起こしうる医薬品がごくわずかある。
とされています。
ここで気にかかるのは、妊娠3週末までなのか、妊娠4週以降なのかの判断です。
妊娠週数の決定方法の優先順位は以下の通りです。
I.妊娠週数は受精日(排卵日)を妊娠2週0日として計算する。
II.月経周期が整である場合は周期を考慮し、計算する。
ただし排卵のタイミングの変動で正しくない可能性がある。
III.超音波計測結果で計算する。正確に測定しても±3.9日の誤差あり。
という形で妊娠初期に妊娠週数や分娩予定日を決定します。
以上より妊娠3週末までなのか、妊娠4週以降なのかの判断は重要です。
I.の方法は人工授精、体外受精などの生殖補助医療を受けている、または基礎体温を測定している場合です。一般の方には難しいのではないでしょうか。
II.,III.の方法では誤差があり、妊娠3週末までなのか、妊娠4週以降なのかの判断は難しそうです。
教科書的には妊娠反応は妊娠4週でほぼ全例が陽性となるといわれており、妊娠反応を行ってから投薬という意見もあるかもしれません。しかし投薬が数日になる薬剤もあり、投薬前が妊娠反応陰性でも、投薬中に陽性となる例もあるかもしれません。
そのため、新型コロナウイルス感染症に罹患し、必要があって妊娠中の内服が問題ないと言えない新型コロナウイルス感染症治療薬を妊娠の可能性がある女性に使用する場合は、現時点で妊娠が判明していなくても近日中に妊娠が判明する可能性もあることを含め、投薬のリスクを十分説明した上での慎重な対応が求められています。
当院では他の薬剤についても妊娠中の薬の安全性は、場合によっては国家公務員共済組合連合会立川病院の医薬品情報室とも連携しつつ、以上のような検討等で判断しています。
ご参考になれば幸いです。